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東京地方裁判所 平成10年(ワ)15753号 判決 1999年4月20日

原告

今野進

右訴訟代理人弁護士

竹田勲

被告

東京新電機株式会社

右代表者代表取締役

渡邉眞己

右訴訟代理人弁護士

高橋清一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、二三六万六三三〇円及びこれに対する平成八年六月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の社員であった原告が定年により退職したところ、支給された退職金金額が、いわゆる会社都合による場合等の高い支給率ではなく、それ以外の場合の低い支給率に基づくものであったため、定年退職の場合には会社都合等による場合の高い支給率に基づく退職金が支給されるべきであるとして、その差額分の支払を求める事案である。

一  前提となる事実

1  当事者、雇用契約、原告の退職、退職金の支給

被告は、各種電機溶接機、機器操作盤の製造、販売等を目的とする株式会社である。

原告は、昭和三六年八月一〇日、被告に雇用され、平成八年五月三一日をもって満六〇歳に達したため、定年により被告を退職した(以下「本件退職」という)。

被告は、平成八年六月一七日、原告に対し、退職金として一一一九万〇四七五円を支払った(以下「本件退職金」という)。

(争いのない事実、書証略)

2  退職金規定

被告における退職金規定は以下のとおりである(本件に関する部分のみ抜粋する。また、原則として原文どおりとするが、用語等を訂正して記載している部分がある)。

(一) 三条(退職金額)

退職金額は、退職時の基本給に、別に定める勤続期間に応じた支給率を乗じて得た金額と、四条に定める功労加算退職金の合計とする。

(二) 四条(功労加算退職金)

在職中に勤務成績が優秀であった者及び特に会社に功労があった者に対して、その退職時において、二〇パーセント以上を加えて支給することがある。

(三) 五条(支給率甲による退職)

次の各号の一に該当する者に対しする退職金額は、別に定める支給率表(注 別紙のとおり)の甲欄とする。

1 会社の都合により退職した者

2 在職中に死亡した者

3  業務上負傷し、又は疾病しその職に耐えられないため退職した者

(四) 六条(支給率乙による退職金)

前条の各号に該当しない者に対する退職金額は、別に定める支給率表(注 別紙のとおり)の乙欄とする。

(五) 七条(支給率の計算)

別表甲、乙欄の支給率による計算は、八条により計算した勤続期間の月割計算による。

(六) 八条(勤続期間の計算)

1 勤続期間は、入社から退職までの期間とする。ただし、休暇・欠勤・病気等により休業した期間は、勤続期間から減算する。

2 遅刻・早退は、三回をもって一日とみなし端数は、一日として計算し前項の休業した期間に加算する。

3 勤続期間の計算において、一か年未満の端数については、過去の二年の月平均労働日数により月割計算し、一か月未満の端数は、一〇日以上の場合は、一か月とし、九日以内の場合は、切り捨てる。

(書証略)

3  本件退職金の算出

被告は、本件退職金の金額の算出に当たり、退職金規定六条に基づき別紙乙欄の支給率を適用したが、同規定五条に基づき別紙甲欄の支給率を適用すれば、その金額は一三五五万六八〇五円となる。

(争いのない事実、書証略)

二  争点

被告の従業員が定年退職した場合、その退職金の算定に当たっては、被告の退職金規定五条一号(会社都合の場合)に基づき別紙甲欄の支給率を適用すべきか、あるいは、同規定六条(会社都合等以外の場合)に基づき別紙乙欄の支給率を適用すべきか。

三  争点に関する当事者の主張

1  原告の主張

被告の就業規則(書証略)によれば、被告の従業員は満六〇歳に達したときは、当該社員の労働継続の意思、能力等に関係なく、一律に定年により被告を退職することとされ、かつ、被告が必要と認めたときは、嘱託として引き続き在職することができるものとされている。

以上からすれば、被告における定年退職制度は、被告の都合により定められたものということができるから、定年退職者は退職金規定(書証略)五条一号の「会社の都合により退職した者」に当たり、別紙甲欄の支給率の適用を受けるというべきである。

このことは、一般に、定年退職が会社都合による退職事由の典型例であるとして論じられ、または認識されていることからも明らかである。

よって、被告は原告に対し、退職金として、一三五五万六八〇五円(前記第一の一「前提となる事実」3参照)から既に支給を受けた一一一九万〇四七五円(同1参照)を控除した残金二三六万六三三〇円及びこれに対する退職金の支払期限の翌日である平成八年六月一八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

2  被告の主張(反論)

(一) 退職金規定五条は、別紙甲欄の適用となる場合として三つの限定された事由を列挙する一方、同六条は、同五条各号に該当しない場合には別紙乙欄が適用されるとしている。この規定構造からすれば、同六条が退職金支給率に関する原則規定であり、同五条が一定の場合に特に優遇して高い退職金を支給することとした限定列挙規定であると解するべきである。

このことは、以下の検討によってより明らかとなる。すなわち、同五条二号及び三号においては、「在職中に死亡した者」及び「業務上負傷し、又は疾病しその職に耐えられないため退職した者」が挙げられており、これらは、いずれも突然の事由が生じ労働者やその遺族の生活保障が要請される場合であるところ、これと並列される同条一号の場合(「会社の都合により退職した者」)も、会社の経営上の都合により突然解雇されることとなった労働者の生活を保障する趣旨で規定されたものであると解されることに照らせば、同条は、特別の事情が生じた場合に限定的に高い支給率とすることを規定したものであるというべきなのである。

さらには、被告の就業規則二〇条には退職の一事由として「定年に達したとき」が挙げられているのに、退職金規定五条にはその旨の規定がないことも、定年退職の場合同条の適用がないことを裏付けるものであるというべきである。

したがって、退職金規定五条に定年退職の場合の定めがない以上、定年退職の場合に同条の適用があると解することはできない。

(二) 原告は、定年退職者は同五条一号の「会社の都合により退職した者」に含まれる旨主張するが、「会社の都合により退職した者」とは、本人の意思や能力にかかわらず、会社経営上の事由により退職する者を指すと解するのが通常であること、被告における定年制は、退職金規定施行当初から就業規則上予定され、労使間で合意されていたことに照らせば、定年退職の場合を「会社の都合」という文言に含まれると解することには無理があり、原告の主張は失当である。

(三) ところで、我が国において、退職事由によって退職金の支給率が異なることが通常であるが、この理は退職積立金及退職手当法が基礎となっていると解される。同法は、労働者が退職した場合に関し、加算して支給すべき場合として、「事業主事業ノ都合ニ依リ労働者ヲ解雇シタルトキ」(同法二六条一項)と定める一方、普通手当を支給すべき場合として、「労働者退職其ノ他ノ事由ニ因リ本法ノ適用ヲ受ケザルニ至リタルトキ」(同法二四条一項本文)と規定し、この普通手当も「特別ノ事由アル場合ニ於テハ其ノ全部又ハ一部ヲ支給セザルコトヲ得」(同条同項但書)と規定している。さらに、普通手当を支給すべき場合の一つとして、「就業規則又ハ之ニ準ズベキモノニ依リ定ムル停年ニ達シタルトキ」には、普通手当の不支給又は減額の規定は適用しないとしている(同法施行規則二九条三項本文、二号)。

以上要するに、同法及び同法施行規則は、定年退職の場合には、「事業主事業ノ都合ニ依リ労働者ヲ解雇シタルトキ」とは異なり特別手当の加算はないが、普通手当は減額することなく支給する旨規定していることになる。このことからすれば、定年退職の場合は会社の都合により退職する場合に含まれないとの見解は、同法及び同法施行規則が施行された昭和一一年当時から一般的なものであったというべきである。

(四) なお、被告は、原告が退職する以前にも、二名の定年退職者(退職年月日は平成二年一〇月一五日及び平成三年一月二四日)に対し、別紙乙欄の支給率を適用して退職金を支給している。また、原告が退職した後にも、一名の定年退職者(退職年月日は平成一一年二月三日)に対し、同じく別紙乙欄の支給率を適用して退職金を支給している。

3  原告の主張(再反論)

(一) 被告の主張1(三)(退職積立金及退職手当法等)について

被告は、退職積立金及退職手当法施行規則二九条三項本文及び二号の規定を挙げて、一般に定年退職は会社都合による退職には当たらないものと考えられていた旨主張する。しかし、同規則二九条一項は、「労働者勤続三年未満ニシテ自己ノ都合ニ依リ退職シタル」場合について規定し、また、同条二項は、「労働者勤続三年以上ニシテ自己ノ都合ニ依リ退職シタル」場合について規定し、同条三項は、これらの規定に引き続いて、「労働者退職ヲ申出タル場合ト雖モ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ前二項ノ規定ハ之ヲ適用セズ」とした上で、一号ないし五号の各事由を規定している。

このように、同条三項の規定の趣旨は、自己都合の退職であっても、その事由が同条三項の各号のいずれかに該当する場合は、同条一及び二項を適用しないという点にあり、したがって、同条二号所定の「停年」とは、労働者が退職を申し出た場合の一事由としての停年(定年)であり、本件のような定年退職制度の場合における定年とはその意義を異にするというべきである。

よって、この点に関する被告の主張は失当である。

(二) 被告の主張1(四)(他の定年退職者の退職金支給率)について

被告が定年退職者に対して別紙乙欄の支給率を適用して退職金を支給したことは知らない。

また、被告の主張のとおりであったとしても、ほんの少数の事例によって退職金支給率に関するあるべき適用が明らかとなるとはいえないというべきである。

第三争点に対する判断

一  「前提となる事実」記載の事実及び証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。

1  被告の就業規則には、二〇条において退職事由として「定年に達したとき」((2)号)が挙げられ、また、二一条において「社員の定年は、満六〇才に達したときとする」とされているから、被告においては、満六〇歳をもって定年とし、定年に達した従業員は、被告が嘱託として在職する必要を認めた場合(同条但書)以外には退職することになる。

2  退職金規定の条項及び規定構造(同規定五条、六条の関係)からすれば、退職金の支給率は別紙乙欄が標準的に適用され(同規定六条)、特段の事由がある場合にのみより高い支給率となる別紙甲欄が適用される(同規定五条)。定年退職の場合は同規定五条の特段の事由として挙げられていない。

3  前記のとおり、被告の従業員が退職する場合、退職の理由が退職金規定五条所定の事由に該当すれば高い支給率に基づく退職金の支給が受けられるが、これ以外にも、当該従業員が在職中に勤務成績が優秀であったか、特に会社に功労があった場合には、功労加算退職金として退職金が加算される(退職金規定四条)。

4  原告が退職する以前にも、被告には定年退職者に対して退職金を支給した例が二例(平成二年一〇月一五日付けで定年退職となった従業員若林タキ江及び平成三年一月二四日付けで定年退職となった従業員松浦福次)あり、そのいずれの場合も、退職金の支給率としては乙欄の適用を受けた。また、原告が退職した後の平成一一年二月三日付けで定年退職となった従業員川原久男についても、やはり退職金の支給率として乙欄の適用を受けた。(これに対し、原告は、ごく少数の事例によって退職金支給率に関するあるべき適用が左右されることにはならない旨主張する。しかし、証拠(略)によれば、被告の従業員数は、平成元年一二月末日現在で二八名、その後漸減して平成一一年二月末日現在で一五名であると認められるから、右三事例が被告においてごく少数に過ぎないということはできない。原告の右主張は採用できない)

二  次に、証拠(略)によれば、被告の就業規則及び退職金規定は、いずれも平成元年九月一日から適用となり、就業規則二七条においても退職金規定が引用されていることが認められるから、右両者は被告において一体として制定・施行されたことが認められる。一方、前記一1及び2のとおり、就業規則二〇条には退職事由として「定年に達したとき」が挙げられている一方、退職金規定五条にはこれが挙げられていない。

以上の点に照らせば、退職金規定の制定に際し定年の場合は退職金規定五条の事由としてあえて挙げられなかったことが推認される。

三  以上一及び二の事実によれば、被告において定年退職となった者に対して支給すべき退職金の支給率は、退職金規定六条の適用により別紙乙欄のそれであるものと認められる。

四  原告の主張について

1  原告は、定年退職の場合が退職金規定五条所定の「会社都合」による退職に該当することの根拠として、一般に、定年退職が会社都合による退職事由の典型例であるとして論じられ、または認識されていることを挙げる。

(一) 確かに、一般に定年退職は会社都合による退職事由の中心的事由となるとして論じられている。就業規則等において、定年退職の場合にいかなる退職金支給率の適用を受けるかについて具体的な規定がないが、同支給率に関し、会社都合退職の場合を標準としており、これと対置される「自己都合退職」等の場合には支給率が低く定められているという場合を想定すると、右の理は妥当するということができる。定年退職とは、労働者の労働能力や適格性がいまだ十分に存在していても、一定年齢に到達すると一律に労働関係が終了するとの性質を有する労働契約終了理由であり、これを「自己都合退職」等と同列に扱うことはできないからである。

しかし、本件被告におけるように、低い支給率を標準とし、特段の事由(会社都合等)がある場合には高い支給率を適用するとの定めがある場合には、右の理は必ずしも妥当しないというべきである。「自己都合退職」等の場合に限らず、右「特段の事由」がない限り標準的に低い支給率の適用を受けるという以上、右に想定した場合とは就業規則等における規定内容・構造が異なるからである。

(二) ところで、一般に、定年退職の場合、就業規則等において高い支給率による退職金の支給を定めている企業が多いことも事実であり、前記三の判断に対しては、このような企業との間に不均衡が生じるとの批判もあり得るところである。

しかし、定年退職以外の退職事由に対して、定年退職の場合の退職金に加算して退職金を支払う旨の定めをしている企業もあり、この点は企業によって一律ではないということができる。

また、我が国の企業においては退職事由に応じて支給される退職金額に差を設けるのが一般であるが、高い支給額を定めている理由としては、(1)使用者が永年勤続した退職者に対して功労報償を与えるという点及び(2)退職者の退職後の生活の基盤を形成して、いわば生活保障を一定程度施すという点にあるものと考えられる。この観点から定年退職の場合をみると、定年退職の場合退職の時期は労働者にとって客観的に明らかであるから、(2)の面は定年退職の場合に高い退職金を支給する理由としてはそれほど重要な要素とはならないものと解される。したがって、定年退職の場合に高い退職金を支給する理由としては、(1)の面が重要であるということができる。

本件被告においては、退職金規定五条に定年退職がその事由として挙げられていないことは前記のとおりであるが、一の3で認定したとおり、退職金規定四条において功労加算退職金の制度が整備されており、定年退職者に対しても同条の適用があることは明らかである。そうすると、被告において定年退職者の被告に対する永年勤続の功労を評価したいと判断すれば、退職金を加算することが可能であるということになる。

なお、証拠(略)によれば、前記一の4の各定年退職者に対して功労加算退職金の支給がされていないことが認められるが、被告において功労加算退職金の支給がその運用として行われていないことを認めるに足りるものではないから、右判断を左右するものではない。

したがって、被告においては、定年退職の場合に一律に高い支給率の適用があるわけではないとはいえ、功労加算退職金の支給によって高い支給率の適用による退職金を支給したのと同様の結果とすることが可能であるから、他の企業との比較で不均衡であるとの批判は必ずしも当たらないと解すべきである。

(三) 以上のとおりであって、原告の右主張は採用できない。

2  原告は、被告の就業規則によれば、被告の従業員は満六〇歳に達したときは、当該社員の労働継続の意思、能力等に関係なく、一律に定年により被告を退職することとされ、かつ、被告が必要と認めたときは、嘱託として引き続き在職することができるものとされているから、被告における定年退職制度は被告の都合により定められたものであり、会社都合の退職というべきである旨主張する。

しかし、右主張は、一般的な意味で定年退職は会社都合の退職であるとの域を出ず、そうである以上、1の判断のとおり右主張は採用できないといわざるを得ない。

なお、原告の右主張中、「会社都合」に当たるとの解釈根拠として、定年退職後被告が必要と認めた場合は嘱託として再雇用することができるとの就業規則上の規定を挙げる部分については、確かに再雇用という側面においては被告の都合により決定することができるが、退職そのものとは明らかに場面を異にするというべきであり、この部分の原告の主張は失当である。

五  なお、被告は、退職積立金及退職手当法及び同法施行規則は、定年退職の場合には、「事業主事業ノ都合ニ依リ労働者ヲ解雇シタルトキ」とは異なり特別手当の加算はないが、普通手当は減額することなく支給する旨規定しており、このことからすれば、定年退職の場合は会社の都合により退職する場合に含まれないとの見解は、同法及び同法施行規則が施行された昭和一一年当時から一般的なものであった旨主張する。

1  しかし、仮に昭和一一年当時には右のような見解が一般的なものであったとしても、前記のとおり平成元年九月一日から施行された被告の就業規則及び退職金規定がこれと同一の見解に則ったとの事実を認めるには足りない。

2  次に、同法及び同法施行規則について検討するに、同法施行規則二九条一項は、「労働者勤続三年未満ニシテ自己ノ都合ニ依リ退職シタル」場合同法二四条一項の退職手当(普通手当)を支給しないことができる旨、また、同条二項は、「労働者勤続三年以上ニシテ自己ノ都合ニ依リ退職シタル」場合右普通手当を減額して支給することができる旨それぞれ規定し、同条三項は、「労働者退職ヲ申出タル場合ト雖モ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ前二項ノ規定ハ之ヲ適用セズ」とした上で、その二号において「就業規則又ハ之ニ準ズベキモノニ依リ定ムル停年ニ達シタルトキ」を挙げている。一方、同法二六条一項は、「事業主事業ノ都合ニ依リ労働者ヲ解雇シタルトキハ退職手当トシテ第二四条第一項ノ金額ノ外特別手当積立金ノ存スル限度ニ於テ左ノ各号ノ一ニ達スル迄ノ金額(特別手当)ヲ加算シテ支給スベシ」としている。

このように、同法二六条一項はいわゆる会社都合による解雇の場合のみに限った規定となっていること、同法及び同法施行規則は、「停年」に達したときの退職手当の支給を考慮に入れているものの、特別手当に関しては「停年」の場合についての規定がないことに照らすと、同法及び同法施行規則につき、「停年」の場合には特別手当の支給対象とはならない旨解釈することができる。

しかし、ここでの「特別手当」と「普通手当」との関係が、本件のような退職金の支給率の高低と同一の性質を有するものであるとまで認めるには足りない。また、同法施行規則二九条三項の規定の趣旨は、自己都合の退職であっても、その事由が同条三項の各号のいずれかに該当する場合は、同条一項及び二項を適用しないという点にあり、したがって、同条三項二号所定の「停年」とは、労働者が退職を申し出た場合の一事由としての停年(定年)であり、一定年齢に達すると自動的かつ一律に退職となる「定年退職」とはその意義を同一としているとは必ずしも認め難いというべきである。

3  したがって、被告の右主張は原告の請求を否定する根拠とは必ずしもなり得ない。しかし、このことは、原告の主張は理由がないとする前記判断を何ら左右するものではないのはもとより当然である。

六  よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉崎佳弥)

別紙(略)

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